今年のアカデミー賞ノミネートのサプライズは「ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中/Jackass Presents Bad Grandpa」のノミネートかもしれません。とは言っても、作品賞や演技賞などのメインではなく”ベストメイク賞”ではあり、当然、受賞は逃したわけでが。ただ、投票権をもつアカデミーの会員も、この映画もしっかり観賞するかと思うと、ある意味”快挙”と言えるかもしれません。
アメリカのケーブルテレビ「MTV」制作の番組のなかでも悪名高き「ジャッカス/Jackass 」・・・ジョニー・ノックスヴィルを中心にしたメンバーが体を張った過激なイタズラをする内容で「どっきりカメラ」の要素もあるという典型的な「おバカ番組」であります。番組内の行為を真似して死者が出るなど社会問題になりながらも、3シーズン終了後にはスパイク.ジョーンズ監督(マルコビッチの穴、her/世界でひとつの彼女)が製作総指揮を勤める映画3作が作られるほどでしたが・・・「YOU TUBE」の台頭によってJackass風の映像のインパクトが薄れていったところは拭えません。そこで、サシャ・バレン・コーエン(ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習、ブルーノ)の一般人のリアクションを楽しむ”どっきりカメラ”と、フィクションのコメディを融合したスタイルをパクった(オマージュ?)のが、本作「ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中」であります。
46年連れ添った妻エリーを亡くしたアーヴィング(ジョニー・ノックスヴィル)は、刑務所に戻らなければならなくなった娘キミーの8歳の息子ビリー(ジャクソン・ニコル)を、ノースカロライナのビリーの父親チャック(グレッグ・ハリス)に送り届けることになります。エロじじいのアーヴィングを演じるのは、”86歳の”に変身したジョニー・ノックスヴィル(現43歳)・・・さすが、映像だけでなく、実際に会った一般人を騙せただけの見事な特殊メイクであります。本作の内容はともかく、メイクではアカデミー賞ノミネートというのも納得です。8歳の孫を演じるジャクソン・ニコルは、こまっしゃくれた肥満気味の男の子で、ジャッカス的な下品な悪のりも”お手ものというなかなか芸達者・・・この子なしでは、本作は成り立たなかったでしょう。
どっきりの対象は彼らが道中で出会う”一般人”で、仕掛けるイタズラは悪ふざけなものばか。生々しいリアクションからは、アメリカ人の”頭の悪さ”や”人の良さ”が垣間みれますが、サシャ・バレン・コーエンのような政治的な毒はありません。”チンコ””ウンコ”に笑いが止まらない小学生レベルのイタズラなのです。ただ、その”頭の悪さ”に苦笑してしまうという愛すべき面白さに溢れています。特に、ボクのお気に入りの酷いシークエンスは、ダイナーでアーヴィングとビリーが”おならごっこ”をしているうちに、エスカレートしてアーヴィングが壁に”ウンチ”をぶっぱなしてしまうところ・・・知能指数が急降下してしまうほど、頭を抱えて笑ってしまいました。
どっきりを仕掛けるだけで終わっていたら「ジャッカス」の延長でしかなかったのですが、本作はアーヴィングとビリーというキャラクターの”フィクションの物語”を追いながら、一般人への”どっきりカメラ”という嘘と現実が入り交じっている奇妙な映画・・・一度はビリーを父親のチャックに送り届けた後、アーヴィングがビリーを取り戻しにいくシーンでは、一般人のリアルな真実のリアクションが、虚構の物語に妙な感動を生んでしまっているのです。何故か、ビリーの引き渡し場所に指定されているのが、ガーディアン・オブ・チルドレンという虐待された子供たちを助けることを使命としている「バイク野郎」の集団のたまり場。子供の養育のために受け取る月600ドルだけが目的としている父親のチャックは、彼らが最も憎むべき相手・・・ビリーをアーヴィングに渡さないように暴れ始めるチャックの腕を、イカツイ男たちはマジで締め上げ始めるのです!チャックを演じるグレッグ・ハリスは「腕の骨が折られると本当に思った」というほど怯えてしまったそうで・・・こうなると、どっきりを仕掛けられているのが一般人なのか、虚構のキャラクターを演じている出演者なのか分かりません。
そして、この「マジでやばい!」感じこそが「ジャッカス」の真骨頂でもあるわけで、「ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中」は、まぎれもない「ジャッカス」映画であるのです。
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