残酷描写だったり、悪趣味テイストだったらば、ボクはかなりの許容範囲がある方なのですが・・・今まで観た映画の中には自分のモラルの限界を超えた「もう二度と観たくない映画」=「自己封印映画」なんていうのもあるのです。
西ドイツの映画監督ユルグ・ブットゲライトの死体愛好趣味を描いた「ネクロマンティック」は、あまりにも忠実かつリアルに腐敗していく死体の性行為を描写しているので、いまだにボクはハッキリと映像を見ることは出来ていません。死体愛好家としての究極のマスターベーションとして、自らが死にながら射精するというエンディングには、脳内で処理しきれず唖然としてしまいました。おそらく「ネクロマンティック」ほど、モラル的に衝撃を受ける映画なんて、一生観ることもないだろうと思っていたのですが・・・2010年製作の「セルビアン・フィルム/A Serbian Film」は「こんなの作っちゃダメでしょ~!」とツッコミたくなるような、トンデモナイ最狂のエログロ映画でした。残酷描写には寛容な日本だけど、本作はポルノ的な描写もあるので、今のところ公開予定なしであります。(その後「シアターN渋谷」レイトショーにてぼかし/モザイクありのノーカット版が日本公開決定しました!)
ボクが観たのは昨年ロンドンの映画祭で公開された、一部のショットがカットされたバージョンで、直接的な描写のいくつかは削除されていたようですが、それでも十分に気が狂いそうになりました。主人公のミロスは警棒のような巨根を持った元伝説のポルノスターだったのですが、いまで美人の奥さんと幼い息子をもつ平凡な家庭人になっています。ミロスはブクミールという男から破格のギャラでポルノ映画への出演を依頼されます。貯金が底をつきかけ息子の将来のためにも金は必要ということで家族を守るためにミロスは復帰を引き受けるのです。大金持ちのクライアントのために彼らの嗜好を満たすため「ポルノを芸術の域にまで高めたい」というブクミール・・・ミロスには撮影するまで具体的な内容を一切知らせず、なんとも不気味であります。指示を受けるがままにオチンチンを勃たせて撮影を続けるのだけど・・・次第に撮影内容は暴力的かつ倫理的に反するモノになっていくのです。このミロスを演じる役者さん(スルディアン・トドロビッチ)が、なんとも冴えない感じで「元ポルノスター?」って感じなのですが、ストレートポルノの男優というのは、別に顔で売っているわけではないので、これはこれで良いのでしょう。
ここからは不快な説明、および映画の内容のネタバレ含みます。
娘の目のまで母親を殴ってレイプさせられ、ミロスはもう変態プレイはゴメンだと逃げ出そうとしますが、勿論、すんなりと帰してもらえるわけはありません。ブクミールはミロスに妊婦が生んだばかりの赤ん坊をレイプするというキチガイフィルムを無理矢理見せ「新生児ポルノだ~!」と狂ったように唱えます。さすがのミロスも完全に恐れをなして逃げ出さずにいられません。このシーンは一部カットされているものの「生まれたばかりの新生児を犯す」という頭がおかしくなりそうな発想に、ボクの脳内では100%拒否反応が出てきました。飲み物の中に何かを仕込まれていたようで、その後ミロスは刺客の女にあっさりと捕まり、家畜用のバイアグラのような強力な精力剤を打たれて意識朦朧となってしまいます。
そこで映画はいきなり3日後・・・ミロスは自宅のベットで血だらけで目を覚ますのですが、何が起こったのか記憶がありません。ここから、悪夢のような3日前の惨劇をミロスとともに観客は振り返ることとなります。異様に性的に興奮したミロスは撮影現場に連れ戻され、女のレイプしながら首を切り落とすように命令され実行してしまいます。その後、倉庫のような場所へ連れて行かされ、布にくるまれた誰かを犯すように指示されます。気付くと警察官である弟が隣で、もうひとつ布に包まれた誰かを犯しています。その布を取ると、そこにはミロスの美人妻が・・・そしてミロスが犯していたのは、彼の幼い息子。ミロスは狂ったようにブクミールをに掴みかかり、頭を床に打ち付け続けて殺してしまいます。妻もミロスの弟の首もとを噛みちぎり、オブジェで頭を何度も潰します。ボディーガード達を拳銃で撃ち、そのうちの一人は、ミロスは凛々と勃起したオチンチンを目にぶっ込んで殺してしまうのです。
その後、何とかミロスは妻と息子を家まで連れて帰えるのですが・・・家族は絶望的になり一家心中。なんとも後味悪い終わり方だと思ったら・・・そこに現れたのはブクミールの黒幕であった闇組織の男達・・・実は撮影はまだ続けられていたのです。そして黒幕の中年男が部下に命令します。「まずは小さいのからやれ!」と・・・息子から死姦されるのであります。容赦のなく、さらに観客を突き落とすような不快な結末・・・子供を変態嗜好の対象にするのは、モラルの許容範囲を完全に超えていました。
殺戮系のホラーというと「ホステル」を思い出しますが・・・悪夢的な雰囲気はデビット・リンチ的な雰囲気でした。実のところ物語としても、撮影も、編集も、かなりしっかりしているところが、逆にこの手のスキャンダラスな映画にありがちな安っぽさがなくて、逆に制作者たちを恐ろしく感じてしまうのです。内戦の続いたセルビアの不安定な社会背景がこういう映画を作らせるマインドを作ったのではないかと制作者も説明しています。
戦争というモラルの欠けた状況を生き抜いた人たちが、やっと平和な社会になって作った映画が「反モラル」の極み・・・というのも考え深いところがあります。平和になったからこそ、心の洗われるような”美しい理想”を目指すのではなく、再び人間的なモラルをぶち壊す・・・これって、本当に「平和」になったということなのでしょうか?
セルビアの心の闇と傷は、さらに深まっているとしかボクには思えません。
「セルビアン・フィルム」
原題/A Serbian Film
2010年/セルビア
監督/脚本 : スルディアン・スパソイエビッチ
出演 : スルディアン・トドロビッチ、セルゲイ・トリフュノビッチ
2012年1月21日より「シアターN渋谷」レイトショー公開
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