昭和歌謡や弾き語りのフォークだったり、70年代や80年代ファッションだったり、懐古的に振り返る「過去」というのが、自分自身でしっかりと経験した時代になってくると・・・自分の年齢というのを考えさせられます。
流行として「再発見」される過去は、その時代を実体験をしていない若い世代にとっての「ツボ」にハマる部分だけを大雑把にピックアップして過大評価しているように、リアルタイムで経験しているオトナには感じてしまうものです。
ただ、我々の世代だって「大正モダン」や「ミッドセンチュリー」などを勝手に再発見して喜んでいるわけで・・・未経験だからこそ”当時以上に”高い評価をして楽しむというのは、どの時代でも行われていることなのかもしれません。
洋食のレストラン「ひまわり亭」を舞台に、三姉妹とその家族、そしてその店で働く人たちの物語がコミカルに描かれる「ちょっとマイウェイ」は、「昭和のファミリードラマ」でもなく「トレンディドラマ」でもない、70年代と80年代の狭間の1979年秋から1980年春に放映されたテレビドラマです。
ただ、この時代(1980年前後)は、ファッション的にもカルチャー的にも、その前後のインパクトに負けてしまっているような気がしています。
70年代ほど可愛いらしいレトロ感がある時代でもなく・・・といって80年代のバブル時代ほど突っ込みどころ満載のオバカっぷりといわけでもなく・・・若い世代に再発見/再評価されることが殆どないようなのです。
「ちょっとマイウェイ」のDVD化を渇望していた層というのも、おそらくリアルタイムでドラマを観ていた人たちばかりのようで・・・2006年にDVD化が実現されて新たな若い世代のファンが生まれた、という感じではありません。
舞台となる代官山は、当時すでにヒルサイドテラスもあって、おしゃれな高級住宅地のひとつでした。
70年代後半には路地があるような町並みではなかったので、ドラマを観ていて「これって代官山なの?」という違和感はあったことを覚えています。
物語はしっかり者の三女のなつみ(桃井かおり)が、当時都内のあちこちで行われていた都市開発によって、閉店寸前に追い込まれていた実家の「ひまわり亭」に戻ってきて再建を決意するところから始まります。
桃井かおりは「幸せの黄色いハンカチ」で助演賞を総なめにして役者として高い評価を受けていただけでなく、男に媚びない姉御肌の個性的なキャラと独特な語り口や発言で注目されていた女優でした。
ちょっと肩パッドが入ったカーディガンやジャケットを肩に羽織り、スリムなテーラードスカートにハイヒールという70年代末期の”小林麻美チックな”ファッションというのも、一般的には桃井かおりのイメージの方が強く、まさに時代の寵児として「翔んでる女」の象徴だったのです。
そんな桃井かおりが「桃井節」というような台詞まわしで”桃井かおりらしさ”を全面的に押し出した”初の主演作”といっていいのが「ちょっとマイウェイ」だったと記憶しています。
毎エピソード、シチュエーションコメディのようにいくつもの伏線が張られるのですが、エンディングですべてが繋がってオチがつく・・・というような見事な脚本でした。
また、なつみの親友カツ子役の研ナオコは本人そのままのおしゃれでお人好し、長女役の八千草薫は天然系おっとり、次女役の結城美栄子はヒステリックで口うるさく、男やもめのシェフ役の緒形拳は不器用な男、ウェイトレス役の左時枝はシニカルなオールドミス、優柔不断な料理人役は赤塚真人と秋野太作・・・というように、このドラマの出演者それぞれが見事にステレオタイプのキャラクターを演じているので、役柄と役者のブレがないという絶妙なキャスティングでありました。
1970年代の末期から1980年代というのは、一生懸命の努力や暑苦しい根性ではなく、クールな感性(シラケ世代とよばれていたような)によって個性を尊重することが、若者の主流となりつつあるターニングポイントの時代ではなかったでしょうか?
振り返ってみると・・・桃井かおりという存在は、当時以上にあの時代を象徴していて、時代の雰囲気を最も具体的に体現していたのかもしれません。
そして「ちょっとマイウェイ」というドラマは、その時代感をキャプチャーしたタイムカプセルのような気がするのです。
「ちょっとマイウェイ」
1979年10月13日~1980年3月29日
土曜日午後21時より、日本テレビ系列
スタッフ
脚本/鎌田敏夫、那須真知子、鴨居達比古、金子成人、猪又研吾、柏倉敏之、清水邦夫、他、演出/吉野洋、池田義一、雨宮望、オープニングイラスト/倉多江美
キャスト
桃井かおり(浅井なつみ)、研ナオコ(川村カツ子)、緒形拳(堀田康吉)、八千草薫(浅井朋子)、結城美栄子(大石伸江)、犬塚弘(大石定夫)、赤塚真人(大石常夫)、神田正輝(大石満)、秋野太作(米沢誠)、岸本加世子(牧野真弓)、左時枝(野村和子)、峰竜太(前橋一男)
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