”オードリー・ヘップバーン”は、ジバンシーの衣装をスタイリッシュに着こなす「おしゃれ」の代名詞で、永遠の妖精のようなイメージの女優だと思います。
”ダサくて痛い女子大学生”なんて最もオードリーには似合わないように思えますが、そんな”らしからぬ”役柄を彼女が38歳の時に演じているのが「いつも二人で」という作品です。
「いつも二人で」は、イギリス人夫婦のマーク(アルバート・ファニー)とジョアンナ(オードリー・ヘップバーン)の出会いから離婚寸前の倦怠期までを、フランスを南下する夏のドライブ旅行を舞台に描いています。
このルートが当時のイギリス人にとってポピュラーなドライビングコースであったかは定かではありませんが、二人はこの映画の中で繰り返し同じ道をドライブすることになるのです。
「出会いのヒッチハイクの旅」「ポンコツ車での新婚旅行」「マークの元彼女の夫婦とその娘との旅行」「倦怠期のふたり旅」「子供との家族旅行」「離婚寸前の旅」と、さまざまな時代を描いているのですが、時間軸にに沿って話が進むわけではありません。
シーンごとに時間を遡ることは映画でよく使われる手法ですが、この映画ではワンショットごとに時間を飛び越えたりして、観客は「一体、今はいつの二人?」と、迷ってしまうような作りになっています。
映画の最初のシーンは、離婚寸前の冷えきった二人の関係を表すような台詞です。
結婚式を挙げたばかりのカップルを見て・・・ジョアンナ「あの二人、あまり幸せそうには見えないわ」マーク「それはそうだ・・・結婚したばかりなんだから」
繰り返される同じルートのドライブの旅で、二人は毎回の夫婦の関係の危機にぶつかり、皮肉なハプニングで関係の修復を繰り返していきます。
二人が学生の頃、建築家の卵だったマークは女学生の合唱グループと合流するのですが、グループの中で気になっているのは地味なジョアンナ(オードリー・ヘップバーン)ではなく、若い日のジャクリーン・ビセット演じるセクシーな女子学生なのです。
しかし、ジョアンナはマークにひと目惚れしてしまいます。
ダサイ風貌(セミロングに長いスカートにカーディガンという図書館女子風?)のジョアンナですが、実は好きな男をトコトン追いかける「隠れ肉食系女子」なのです。
ジョアンナ以外の女子大学生は水疱瘡になってしまい、マークとジョアンナの二人のヒッチハイク旅行となってしまいます。
マークはハッキリとジョアンナとの二人旅を拒絶するのですが、怯むことなくジョアンナはマークにアタックを繰り返します。
ことあるごとにマークは厳しい言葉でジョアンナの傷つけても、ジョアンナは皮肉やユーモアで切り返します。
その気のない男を相手に、はしゃぐジョアンナの姿は”痛い女”です・・・しかし、結果的にジョアンナは巧みな誘導(?)で、マークに突発的ににプロポーズをさせてしまうのです。(恐るべし隠れ肉食系女子!)
ジョアンナがマークに、出会っていきなりゾッコンなのが不可解なのところではあるのですが・・・「皮肉をぶつけ合える」ほど刺激的なパートナーがマークなのです。
マークは自分本位の男ではありますが、パスポートを忘れたり、プールに落ちたり、お茶目で憎めない男です。
最後の最後には「I LOVE YOU」と言って帰ってくる可愛い男だったりもします。
だから、ジョアンナは真面目で優しい男に惹かれても、結局マークに戻ってしまうのです。
年月が経つごとにマークは建築家として成功し、ふたりの生活は裕福になっていくのですが、彼のジョアンナに対する態度はますます冷ややかになっていきます。
比例するように、ジョアンナはますます苛々した、ファッションだけにはお金をかけたドレッシーな金持ち中年女になっていきます。
オードリーが演じてきたのは「マイ・フェア・レディ」に代表されるような”少女”が男性(それも、おじさま)に磨かれて、ハッピーエンドを迎える物語が多いですが、その後は二人の人生は語られることはありませんでした。
もしかすると、マークとジョアンナのような倦怠期を迎えた普通の夫婦になっていたのかも・・・しれません。
もしも、この映画が二人の出会いの「過去」から始まって、離婚寸前の「現在」へと、時間に沿って描いていたならば、気の重くなる退屈な話だったでしょう。
しかし、この映画ではマークとジョアンナがケンカしながら走っているジャガーの後ろを走っているポンコツ車の中に、愛し合っている新婚時代の若い二人の姿があったりします。
「いつも二人で」を監督したスタンリー・ドーネンは元々は振り付け師で、ジーン・ケリーのMGMミュージカルの監督であり、オードリーらしい魅力が満載の「パリの恋人」や「シャレード」も手掛けたテンポとセンスの良さで知られた監督です。
自由自在に時間軸をバラバラにして再構築したことで、二人は「過去」も「現在」も「その間の時代」も、同時に生きているかのように映画では描かれています。
マークとジョアンナが夫婦でいることの道のりは平坦ではないれど、確かに二人で同じ道を進んでいます・・・そして、それは同じ一本道を繰り返し何度も何度も進んでいるようなものなのかもしれません。
人生に”山”や”谷”はあれど「この道は、いつか来た道」・・・ということなのです。
「いつも2人で」
原題/Two for the Road
1967年/イギリス
監督 : スタンリー・ドーネン
脚本 : フレドリック・ラファエル
出演 : オードリー・ヘプバーン、アルバート・フィニー、ジャクリーン・ビセット
音楽 : ヘンリー・マンシーニ
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