1950年代エリザベス・テイラー(以後、リズ)は「美人の代名詞」というだけで、女優としての芝居のうまさやカリスマ的な人気という点では”いまいち”という気がします。
リズはアカデミー賞主演女優賞の2度目の受賞をしていますが、最初のオスカーは「バタフィールド8」は売春婦役という汚れ役で、美しい女優さんが「こんな役を!」という功労賞的な評価でありました。
「バージニア・ウルフなんかこわくない」では、リズは「32歳」という若さにも関わらず、ブクブクに太ったアル中の中年の大学助教授夫人を演じたのですが、それまで映画の台詞としてタブーだった「FUCK」なんて吐くという、当時として大スターが演じるとは考えられないような汚れ役で2度目のオスカーを受賞しました。
「バージニア・ウルフなんかこわくない」という映画は、アメリカの片田舎の大学の学長の娘(リズ)と結婚しながらも出世しなかった中年大学助教授(リチャード・バートン、以後バートン)の中年夫婦と、赴任してきたばかりの若い助教授夫婦(ジョージ・シーガルとサンディ・デニス)の真の姿が罵り合いの中で暴露されていくという物語です。
美の化身としてハリウッドに君臨していたリズが、映画会社に演じさせられ続けた「美人役」というものに疲れ切っていたのかもしれません。
この役は、映画会社から押し付けれたのではわけではなく、自ら企画の中心になっていたというところが興味深いところです。
劇中の旦那役に、当時実生活でも結婚していたリチャード・バートンを起用したのも、またこの映画が初監督となる舞台演出家のマイク・ニコルズを監督に起用したのも、リズ本人だったということは、彼女が演じたい役だったことを物語っています。
ジャンクフードを食いまくって太って役作りをしたとか、映画冒頭からリズはバートンをヒステリックに侮辱し軽蔑しているのも、後にアル中が原因で離婚することになるバートンとの実生活と重なってしまいます。
世間的にはショッキングだった役作りも、リズにとっては「いつもどおりにやってみました」ってことだったのかもしれません。
ジョセフ・ロージー監督による「夕なぎ」も、別な意味でリズの一面を垣間見せる映画です。
この作品も、リズの熱望によって実現したテネシー・ウィリアムスの戯曲の映画化で、夫であるバートンとの共演した作品のひとつです。
ただ、大富豪の中年女性を演じるリズは当時まだ「35歳」で、彼女を魅了する詩人役が年上のバートンという無理なキャスティングもあって、ロージー監督自身も何を描きたかったか分からないと後年語っているように、一般的には”失敗作”と言われている作品です。
「夕なぎ」という映画は、美貌を失った大富豪の女性が、死の天使と呼ばれる詩人の若い男に惹かれ、誘惑するも、拒絶され、屈辱感のなかで死を迎えるというわけの分からない物語です。
気を強い女秘書や、ゲイの占い師、小人のボディーガードなどのキャラクター達の絡みや、大富豪の女主人が所有する地中海の孤島という舞台、インド風の音楽、妙な東洋趣味(侍や歌舞伎の衣装を引用?)の融合など、その不思議な世界観に戸惑いを覚えます。
ただ、ほぼ全編に渡ってリズは相変わらずヒステリックに怒鳴まくり、使用人たちを罵倒しています。
その中でバートン演じる詩人だけがリズの思う通りにならないというところが、なんとなくバートンとの実際の夫婦生活でのリズのフラストレーションを思い起こさます。
そう言えば「熱いトタン屋根の猫」「去年の夏、突然に」(共にテネシー・ウィリアウス原作)でもリズは美しい人妻ではありましたが、ゲイの旦那から体を求められない役柄を演じていました。
「絶世の美女」として誰もが認める存在でありながら、ピッタリと来るキャラクターがヒステリックな性的にフラストレーションを感じている女性(オバさん)というのは、なんか皮肉なことです。
エリザベス・テイラーという女性は「エリザベス・テイラー」という虚構の女を、スクリーンと実生活で演じていた「女形」のような人だったような気がしてしまうのです・・・。
「バージニア・ウルフなんかこわくない」
原題/Who's Afraid of Virginia Woolf?
1966年/アメリカ
監督 : マイク・ニコルズ
製作 : スタンリー・ドーネン
脚本 : アーネスト・レーマン
原作 : エドワード・アルビー
出演 : エリザベス・テイラー、リチャード・バートン、ジョージ・シーガル、サンディ・デニス
衣装 : アイリーン・シャラフ
「夕なぎ」
原題/Boom!
1968年/イギリス
監督 : ジョゼフ・ロージー
脚本 : テネシー・ウィリアムズ
原作 : テネシー・ウィリアムズ
出演 : エリザベス・テイラー、リチャード・バートン、ノエル・カワード