フランシス・ベーコン(Francis Bacon)という画家には、個人的に強い思いがあります。
ベーコンの絵を初めて見たのは、1983に年東京の国立近代美術館で行われた「フランシス・ベーコン展/1952~1982」でした。
その年の9月から始まるアートスクールの授業が始まる前に、夏休み期間中に日本へ里帰りしていました。
当時はベーコンについてはまったく知らなかったのですが、広告の絵に魅かれて足を運んだ記憶があります。
高校時代からアメリカ留学の最初の1,2年というのは、苦悩する青春の日々でした。
苦痛で叫んでいるような表情、肉体を破壊したようなフォルム、空虚に広がっているような不思議な空間・・・それらに自分の心の痛みを感じさせたのかもしれません。
その後しばらくベーコンに取り憑かれてしまい、アートスクールの絵画のクラスでは、グラフティとベーコンをミックスしたような「不快感を与える」絵を描くことに没頭していました。
その後、アートからファッションの世界に入り、ベーコン的な感覚から距離を置くようになっていました。
まとめてベーコンの絵を目の前にするのは、今回の回顧展が四半世紀ぶりということになります。
メトロポリタン美術館の19世紀美術が収められている二階ギャラリーの奥で開催されている「Francis Bacon : A centenary Retrospective」は、制作された年代順に並べられ、ベーコンの足跡はひと目で理解出来るようになっています。
宗教的な磔刑図のシリーズ、ベラスケスの法王からのたくさんの習作、恋人や友人たちのポートレート、洗練された空間と人体のコラージュ。
どの絵のフィギュアも絵を見ている人間とほど等身大なので、その存在感は絵だとは思えないほど生々しさを感じました。
生前のアトリエに残されていた写真や切り抜きの展示は、ベーコンの制作過程を知ることが出来ました。
ポートレートのために撮影された友人たちの写真、数々の災害や犯罪で亡くなった死体の写真、19世紀に撮影された「The Human Figure in Motion/人体の動きをパラパラ漫画のように記録した写真集」など、ベーコンが引用した写真は、面白いほどに絵の中とフィギュアのポーズや表情と一致しているのです。
若い時にはベーコンの描く表面的なグロテスクなイメージに心魅かれていたところがあったのですが、今では当たり前のような”イメージの断片を引用してコラージュ/再構築”するという制作手法にこそ、影響を受けていたことを再確認したのでした。
Francis Bacon : A centenary Retrospective
Metropolitan Museum of Art、at Special Exhibition Galleries, 2nd Floor
1000 Fifth Avenue(東82丁目あたり)
2009年8月16日まで