俳優の好き嫌いを”外見”だけで判断することはないけれど、”外見”が好きでないから興味がない・・・興味がないから出演作を観ない・・・観ないから”外見”だけのイメージしか持てないという連鎖によって、ますます興味を持つ”機会”さえ少なくなってしまうことがあります。
ボクにとって、そんな俳優のひとりがマシュー・マコノヒー・・・もう20年近くアメリカ映画に出演し続けているハリウッドスターのひとりの俳優であるし、一般的なアメリカ人の感覚では・・・(好き嫌いは別にして)「典型的なハンサム」の代表格ではありますが、そのルックスが災いして、特に強く惹かれる個性を感じられなかったりもします。彼の出演作を観た記憶というのがボクには全くと言っていいほどなくて・・・漠然とロマンチック・コメディとかに出演していそうという程度のイメージしか持っていません。そんなわけで、マシュー・マコノヒーの出演している作品を”あえて”観ようということは、ボクには今までなかったのです。
本編のエンディングのネタバレを含みます。
「Magic Mike/マジック・マイク(原題)」は男性ストリッパー業界を描いた(最近やたら多作の)スティーブン・ソーダバーグ監督作品・・・チャニング・テイタムを始め、男優たちのストリップシーンばかり注目されている一作。チャニング・テイタム自身の男性ストリッパー時代の経験を元にした結構真面目(?)な青春映画です。物語は、大学を辞めて金をとりあえず稼ぐためにストリッパーになったアダム(アレックス・ペティファー)と、昼間は家具デザイナーとしてビジネスを立ち上げようとしながらも人気ストリッパーとしても頑張るマイク(チャニング・テイタム)の、転落と成長を描いていくのですが・・・プレイーガール誌のピンナップボーイのような若手男優たちの中で異彩を放っているのが、ストリップクラブのオーナーのダラス役のマシュー・マコノヒーであります。
アダムの姉に「30歳にもなって、ストリッパー」と罵られ、自分はダラスのような「40歳でも、まだストリッパー」にはなりたくないと、マイクはストリップから足を洗うことを決断するのですが・・・40過ぎのダラスにとってのストリップこそ「天職」。もっと集客の見込める大都市のマイアミに移転して、ストリップクラブのビジネス拡大を狙う野心さえもあるのです。薬物中毒になって堕ちていく者や、ペニス増大器まで使ってストリッパーを続ける者がいる男性ストリッパーの「闇」と、スポットライトを浴びている間だけの「光」の痛々しさが、映画の佳境に満を持してダラスのストリップで表現されます。痩せた筋肉質の40男のカラダには、ハッキリ言って健康的なセクシーさはありませんが、自分の仕事に誇りを持って生き抜いてきた男の気迫を感じさせられてしまいました。ある意味、年齢と共に劣化した自らの肉体をも曝け出したマシュー・マコノヒーのダンスに、涙してしまったほどです。単にハンサムだけの無個性な俳優と思っていたけれど・・・実はボクの大好物の”変態役者”なのかもしれない・・・と、気付いたのです。
マシュー・マコノヒーの気味悪さを確信させたのが「The Paperboy/ペーパーボーイ 真昼の引力」であります。「プレシャス」のリー・ダニエル監督によるフィルムノアール系の気持ち悪いスリラーサスペンスで、ニコール・キッドマンがザック・エフロンに放尿する(!)映画として話題になった一作です。まだ黒人差別が色濃く残る1969年のフロリダを舞台で、”マイアミ・タイムズ”の記者であるワード(マシュー・マコノヒー)が、大学を中退したばかりの弟ジャック(ザック・エフロン)を雑用係にして、死刑囚ヒラリー(ジョン・キューザック)の無実を明かそうとする話・・・ジャック以外の登場人物は一癖も二癖もあるキャラばかりで、つかみどころのない気持ち悪さとエグさ満載なのです。
ヒラリーのフィアンセ(といっても手紙のやり取りだけで婚約したのですが)であるシャーロット(ニコール・キッドマン)というのが、とんでもない女でありまして・・・ミニスカートのまま大股開きをしてパンティ越しに割れ目を見せつけたり、面会の際にはフェラチオの真似事をしてヒラリーをイカせちゃうのであります。話題のシーンというのは、海でクラゲに刺されたジャックの応急処置のためにシャーロットがおしっこをかけるということだけのことでした。アバズレっぷりを生き生きと演じるをニコール・キッドマンや、狂気のセックスマニアックっぷりを熱演するジョン・キューザックとは対照的に抑えた演技で脇を固めているマシュー・マコノヒーが、一番気味が悪いのであります。語り手であるワードとジャックの実家のハウスメイドの台詞だけでしか説明されないのですが・・・実はワードは同性愛者のマゾで、黒人の男たちから受けるハードなSMプレーを好んでいたらしいことが分かります。こんな理解し難い不可解な役柄を、すんなりと演じてしまうマシュー・マコノヒーって・・・なんて気持ち悪いんでしょう!
制作された順序は前後するのですが・・・日本では劇場未公開で、何故かDVD/ブルーレイの発売さえなく、レンタルのみという不遇の作品が、ウィリアム・フリードキン監督による「Killer Joe/キラー・スナイパー」です。テキサス州のホワイトトラッシュ(白人貧困層)の家族の崩壊と再生(?)を、エロスと暴力とブラックユーモアを交えてハードボイルに描いた本作では、マシュー・マコノヒーは”保安官”でありながら副業で”殺し屋”という「善」とも「悪」とも取れない屈折した役柄を演じています。
借金の返済に困っているクリス(エミリー・ハーシュ)は、父親ハンセン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)と彼の現妻シャリア(ジーナ・ガーション)と共謀して、保険金目当てに実の母親の殺害を殺し屋ジョー(マシュー・マコノヒー)に依頼するのですが・・・この家族に前払いで全額を用意できるわけがありません。受け取らなければ仕事は引き受けないというジョーだったのですが・・・母親の保険金の受取人のひとりがクリスの妹のドッティ(ジュノ・テンプル)であることから、ジョーはドッティの身柄を担保に殺害依頼を一方的に承諾します。実はジョーは、この家族の中で唯一ピュアな心をもつドッティにひと目惚れしていたのです。ドッティにとってもジョーはダンディで素敵な大人の男・・・二人はあっさりと恋に落ちてしまいます。
依頼通りあっさりとクリスの母親を殺害したジョーは、ある「真実」をこの家族に突きつけて、ドッティを受け取るために彼らのトレーラーハウスに現れます。現妻シャリアは裏でクリスの母親の現ボーイフレンドとデキていて、クリスをそそのかして、自らの手を汚さずに邪魔者のクリスの母親を殺して、保険金も全額受け取ろうという魂胆だったことを、ジョーは巧みな尋問で暴露していきます。そして、ジョー自らの手でシャリアに屈辱的な罪滅ぼしを強要するのです!フライドチキンのドラムスティックを股間にかざして、跪かせたシャリアにドラムスティックをしゃぶるように命令します。興奮しながらドラムスティックをシャリアの喉の奥まで突っ込むジョー・・・明らかに絵的には「強制フェラチオ」であります!
溺愛する妹ドッティをジョーに奪われることを阻止するため、クリスはジョーを殺害しようとするのですが・・・すでに崩壊した家族は元に戻ることよりも、ジョーを加えた再生を目指そうとするのであります。父親ハンセンはクリスを押さえつけ、銃を奪い取ったドッティはクリスを銃殺してしまうのですから・・・。ジョーに銃を向けながら、ドッティは妊娠したことを告げます。それを聞いて喜ぶジョーの笑顔で映画は終わり、ドッティがジョーを撃ったのかは分かりません。なんとも、拍子抜けするエンディングなのですが・・・血だらけの暴力描写の中に、きわどいユーモアを感じさせる本作は、コメディ映画だったと思い知らされるのです。
個人的には全く萌える要素を感じていなかったマシュー・マコノヒーですが、熟女ならぬ「熟男」となって、いい具合(?)に腐ってきた感じが堪りません!醸し出される変態性と、シニカルな可笑しさから、しばらく目が離せなくなりそうです。
「マジック・マイク」
原題/Magic Mike
2012年/アメリカ
監督 : スティーブン・ソーダバーグ
出演 : チャニング・テイタム、マシュー・マコノヒー、アレックス・ペティファー、オリビア・マン、ライリー・キーオ、マット・ポーマー、ジョー・マンガニエロ、アダム・ロドリゲス、ケヴィン・ナッシュ、ガブリエル・イグレシアス
2013年8月3日より日本劇場公開