2016/10/27

「ル・ポールのドラァグ・レース」のビアンカ・デル・リオ(Bianca Del Rio)ことロイ・ヘイロック主演作・・・女装コメディ映画の王道!?~「ハリケーン・ビアンカ/Hurricane Bianca」~


男性が女性の格好をする=女装して笑わせるというのは、映画の黎明期からあります。イロモノとして侮辱的な笑いを取る”女装”が多いものの・・・「トッチー」や「ミセス・ダウト」などは感動的な要素も盛り込み、女装コメディ映画の商業性を証明しました。

「ル・ポールのドラァグ・レース」については、以前詳しく書いたことがあるのですが(めのおかしブログ参照)・・・執筆した当時は、殆ど閲覧されることもありませんでした。アメリカ版”2ちゃんねる”の「Readit」では日本で唯一の”ドラァグ・レース・ファン”と書き込まれたことがあったほどでしたが、今年の4月から日本語字幕つきで”Netflix”での配信されるようになり、現在では週間の閲覧数の上位に入るほどです。

現在、日本の”Netflix”では、シーズン2からシーズン7(アメリカではシーズン8まで放映済み)まで配信されています。出演者の多くは番組終了後、世界各国をツアーで廻ったり、アーティストとしてデビューしてCDや本を発売したり、自分のテレビ番組を持ったりと、当番組は女装スターへの登竜門となっています。

番組出身のドラァグ・クィーンの中でも、シーズン6の優勝者であるビアンカ・デル・リオ(Bianca Del Rio)ことロイ・ヘイロックは、ブロードウェイのコスチューム工房で縫子として働くかたわら、コメディアンとしても活動しています。タレント性は群を抜いており、歴代の優勝者の中でも”ベストワン”との呼び名が高いのです。最近ではスターバックスのCMにも、ドラァグ・クィーンとして初めて(!?)起用されました。


「ハリケーン・ビアンカ/Hurricane Bianca」は、ロイ・ヘイロックがビアンカ・デル・リオ(Bianca Del Rio)に扮する女装コメディ映画。実は「ル・ポールのドラァグ・レース」出演以前から「ハリケーン・ビアンカ」のインディーズ制作の企画はあったらしく・・・クラウドファンドで資金を募っていたのです。番組出演後、注目を浴びて、十分な資金を集めることができたことにより、映画製作にこぎつけたわけであります。

ニューヨークで高校の非常勤講師として働くリチャード(ロイ・ヘイロック)は、テキサス州の小さな街へ仕事を求めて引っ越すのですが、インターネットの出会い系サイトの登録からゲイであることが明らかになってしまい、いきなり解雇されてしまいます。

同性婚を認める州もあることから、リベラルだと思われがちなアメリカですが、州単位で考えると、まだまだ保守的・・・現在でも29の州では、ホモセクシャルであることを理由に教師が解雇すること法律では禁じていないという驚くべき実情があるのです。


解雇されたリチャードは仲良しになった女友達のカーマ(ビアンカ・リー)に肩を押されて、女装してビアンカ・デル=リオを名乗り、教師の職を取り戻すために高校へ乗り込みます。男性として失敗して、女装して再チャレンジという流れは「トッチー」や「ミセス・ダウト」と似ているかもしれません。

リチャードの女友達となるカーマは、トランスジェンダー(性転換)という設定・・・この役を演じるビアンカ・リー自身がリアルにトランスジェンダーであり、長年”女優”として活躍していて、アメリカの演劇界では注目されている方です。


男性の姿で生活していた(ゲイではありますが)リチャードが、女性に変身するのですから、それなりの試行錯誤を見せると面白いと思うのですが・・・本作では殆ど描かません。あくまでも、ビアンカ・デル・リオの炸裂するジョークが、本作の”みどころ”なのです。

ビアンカ・デル・リオのメイクから明らかなように・・・リアルな女性を目指している女装ではありません。そもそも、ビアンカはコメディアンとして生み出されたという経緯もあり、アイメイクは極端にデォフォルメされています。


辛辣なジョークで切り返す(リーディング、または、シェイド)のは、アメリカのドラァグ・クィーンの伝統であり・・・ビアンカ・デル・リオのドライなユーモアと、相手の弱みにツッコミを入れるウィットは、完成度が非常に高いといえるのです。ただ、ボク個人のテイストには、あまりにも既成の”ビッチ・クィーン”(辛口の女装パフォーマー)のステレオタイプにハマり過ぎていて、少々古臭さも感じてしまうところもあります。近年のドラァグ・クィーンの傾向としては、アグレッシブでビッチな”ツッコミ”よりも、天然系のほんわかした”ボケ”の方が、好感度が高いってこともあったりしますので・・・。

トランスジェンダーのカーマが両親や弟と理解し合う、リチャードがゲイであるとカミングアウトして女装なしでもコミュニティーに受け入れられる・・・という”オチ”は、確かに、政治的にも、倫理的にも、正しい”落としどころ”ではあるのですが、映画としては全くサプライズがありません。


また、インディーズ映画ということもあってか、脇を固める役者たちの魅力がイマイチ。色男も、嫌な女も、セクシーな女も、中途半端なのであります。カメオ出演のル・ポール、アラン・カミング、マーガレット・チョーも十分に活かされているとはいえず・・・「ル・ポールのドラァグ・レース」出身の仲間たち(ウィラム・ベリ、D.J. ”シャングラ”・ピアース、アリッサ・エドワーズ、ジョスリン・フォックス)らの演技は、学芸会に毛の生えたレベルです。


女装コメディ映画の王道をなぞりながら・・・コレといって新鮮な切り口のない、無難な作品としてまとまってしまったのは、残念なことではあります。それでも、既に続編「ハリケーン・ビアンカ 2 ロシアより憎しみをこめて(原題)/Hurricane Bianca 2 : From Russia with Hate」の製作が発表されているそうですから、遅ればせながら(?)アメリカ映画界は、ドラァグ・クィーン(オネエ)の面白さに、やっと目覚めたのかもしれません。


「ハリケーン・ビアンカ(原題)」
原題/Hurricane Bianca
2016年/アメリカ
監督 : マット・クーゲルマン
出演 : ロイ・ヘイロック(ビアンカ・デル・リオ)、レイチェル・ドラッチ、ビアンカ・リー、ローラ・ボサ、デントン・ブラム・エヴァレット、モリー・ライマン、テッド・ファーガソン、アラン・カミング、マーガレット・チョー、ル・ポール、ウィラム・ベリ、D.J. ”シャングラ”・ピアース、アリッサ・エドワーズ、ジョスリン・フォックス
日本劇場未公開
2017年1月1日より「Netflx 」にて配信


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2016/10/15

ニコラス・ウィンディング・レフン監督が”モデルフェチ”と”ナルシスト”っぷりを発揮した最新作・・・「ブラックスワン」+「ネクロマンティック」な”カルト映画”確定!?~「ネオン・デーモン/The Neon Demon」~


”モデルフェチ”の男性というのは・・・女性の美しさを崇拝する美意識の高い”フェミニスト”でありながら、同時に非人間的な美女を自分のまわりに侍らしたいという”ナルシスト”でもあるのかもしれません。ニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作「ネオン・デーモン/The Neon Demonは・・・監督の”モデルフェッチナルシストっぷりを惜しげなく発揮したような作品であります。

16歳で孤児のジェシー(エル・ファニング)は、ジョージア州からファッションモデルを目指してロサンジェルスに引っ越してきたばかり・・・ハンク(キアヌ・リーブス)が管理人を務める町外れのモーテルに寝泊まりしながら、モデル活動を始めています。ネットで知り合ったアマチュアカメラマンのディーン(カール・グルスマン)に、ポートフォリオ用の写真を撮影をしてもらっているのですが、何故か、ジェシーは血だらけのメイクをして死んだフリをしています。


本作は”ファッションモデルの世界”を舞台にしているのですが・・・あくまでも「美」についての映画をつくるための舞台としての”ファッションモデルの世界”と、捉えた方が良いかもしれません。まず、本気でファッションモデルを目指すなら、アメリカだったらニューヨークです。ロサンジェルスにも”モデルもどき”の美女が集まってきますが、彼女達が目指すのはエンターテイメント界のセレブやスターと接点を持つため(あわよくば愛人?)・・・ファッション界とは別の世界です。また、ファッションモデルのポートフォリオで、ホラーテイストというのは考えられません。ただ、物語の伏線として”血だらけ”というのには、大きな意味があるのですが・・・。

撮影後、メイクアップを担当したルビー(ジョナ・マローン)に誘われて、奇妙なパフォーマンスが行なわれているナイトクラブに行って、モデルのジジ(アビー・リー)とサラ(ベラ・ヒースコート)を紹介されます。二人とも”モデル”を絵に描いたようなスレンダーな美女ですが、整形手術や極端なダイエットで手に入れた”人工的”な美の典型です。さっそくジェシーは先輩モデルであるジジとサラからの洗礼を受けることになります。女性が買いたがる口紅の色のネーミングは「フード(食べ物)」か「セックス」のどちらかであるという話題になり、まだ処女のジェシーは「フード」・・・それも「デザート」だと、からかわれるです。(これも伏線!)


ニコラス・ウィンディング・レフン監督は美しい女性が、嫉妬で火花を散らすのが”お好き”なようです。確かに、モデル業界というのは競争が激しい世界です。外見だけで判断されることをオーディションで繰り返し経験するモデルは、役者やダンサーと違い本人の努力できる余地は僅かしかなく、雇い主(デザイナーやスポンサー)の好み次第の”受け身”の存在・・・体格的な適正、流行りのルックス、そして、運がすべてを左右する世界なので、嫉妬が生まれやすい環境と言えるかもしれません。

モデルエージェントはジェシーに”何か”に魅力を感じて、トップカメラマンのジャック(デズモンド・ハリントン)との撮影をセットアップするのですが、ジャックもすぐさまジェシーの”何か”に魅せられます。ファッションショーのオーディションでも、ジェシーはデザイナーの目に留まりフィナーレの大役まで任されるのです。当然のことながら、ジジやサラの嫉妬の対象となります。しかし、ジェシー自身も自分の美しさと特別な”何か”に気付き・・・(「2001年宇宙の旅」のような幻想的なファッションショーで)”ナルシスト”として覚醒するのです。


本作はストーリーテリングに長けた作品ではありません。伏線となる台詞やイメージが散りばめられていますが、丁寧に説明されるわけではありません。また、シンボリックなイメージや感情を表現するカラーパレット(自己覚醒はブルーからレッド)に溢れていますが、具体的に何が起こっているかは殆ど画面では見せません。そのため、本作は観る人を選ぶ作品といえます。ニコラス・ウィンディング・レフン監督作品では「ブロンソン」や「ドライヴ」が物語性がある方だとすると・・・本作は「ヴァルハラ・ライジング」」「オンリー・ゴット」に近く、監督のフィルモグラフィーの中でも最も実験的な映画ではないでしょうか・・・。

ここからエンディングのネタバレを含みます。観賞後に読み進めることを強くお奨めします。


ジェシーの滞在しているモーテルでは、トンデモナイ出来事が起こります。ジェシーが覚醒する”予兆”を表しているのでしょうか・・・ある夜、ジェシーの滞在している部屋にワイルドキャットが侵入します。また、キアヌ・リーブス演じる管理人が普通の人であるわけもなく・・・(映像では描かれませんが)実は、この管理人はロリータ趣味の殺人鬼(?)なのです。その犯行が行なわれた時の恐ろしげな音を聞いて、ジェシーはルビーがハウス・シティングしている屋敷に身を寄せるのですから。

ジェシーに親切にしてくれるルビーにしても・・・実は”レズビアン”で、ジェシーのカラダを狙っているのです。死体にメイクをする死化粧師としても働いて、ジェシーへの欲求を押さえきれなくなると、女性の死体と性行為を始めるのですから、相当イカれてます。その後、ジェシー誘惑して冷たく拒絶されたことをきっかけに、ジジとサラと共謀して・・・あっさりジェシーを殺害してしまうのです!そして(映像では描かれないのですがぁ〜)殺害後、3人はジェシーの肉体を食べてしまいます。まさに、ジェシーは「フード」(それもデザート!)だったのです。

その後、ジジとサラはプールサイドでのジャックの撮影に参加するのですが、罪悪感に襲われているジジは、突然具合が悪くなり、ジェシーの目玉を吐き出してしまいます。そして、ジェシーが自分の体から出ないと訴えながら、自らのお腹をハサミで突いて絶命してしまうのです。床に転がったジェシーの目玉をつまんで、ぺろっと食べてしまうサラ・・・荒れた荒野にひとり佇ずむジサラの後ろ姿で、本作は終わります。Siaによる「Waving Goodbye」の歌詞が、サラの心境を謳っているようにも思えます。


正直言って・・・物語の結末としては宙ぶらりんの印象です。ロリータ殺人鬼のハンク、おそらくジェシーに恋していたディーン、月に向かって何かしらの儀式をして月経の血を流していたルビー、撮影中だったカメラマンのジャック・・・登場人物の殆どがほっとらかし。”美”については「ブラックスワン」のようであり、”死”については「ネオロマンティック」のようであり、圧倒的な映像美とアンビアントな音楽に禍々しい”何か”を感じるものの、その”何か”を確かめるために何度も何度も見返したくなる映画なのです。

ニコラス・ウィンディング・レフン監督(自らを”未来人”だと言い張る)によると・・・未来の映画作家は何を物語るかではなく、何を訴えるということが大事だそう。そして、映画は「善し悪し」ではなく(善し悪しなんて昨晩の夕食がどうだった程度のことらしい)・・・どう反応(reaction)するかであり、それが経験(experience)の要素(essence)になり、考え(thoughts)が生まれると言うのです。う~ん・・・斬新な発想にも思えますが”、当たり前”のことのようにも思えます。

究極のフェチは、自らがフェチの対象にもなってしまうことかもしれません。本作は、コラス・ウィンディング・レフン監督自身が内包しているという「16歳の美しい女性」となって、表現した「美」と「美に囚われた人々」の映画だそうです。ネオン・デーモンの正体は”エル・ファニング”・・・すなわち、コラス・ウィンディング・レフン監督自身なのかもしれません。”ナルシスト”が”ナルシシズム”について”ナルシシスティック”に描いた正真正銘の「ナルシスト映画」として、ボクは猛烈に「ネオン・デーモン」に惹かれてしまうのです。


「ネオン・デーモン」
原題/The Neon Demon
2016年/アメリカ、フランス、デンマーク
監督 : ニコラス・ウィンディング・レフン
出演 : エル・ファニング、キアヌ・リーブス、カール・グルスマン、ジョナ・マローン、アビー・リー、ベラ・ヒースコート、デズモンド・ハリントン
2016年10月27日第29回東京国際映画祭にて上映
2017年1月13日より日本劇場公開

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