2013/05/30

母と息子の「贖罪」と「復讐」の物語でキム・ギドク監督、完全復活!・・・男のすべての「罪」は「母性」によって許されるの?~「嘆きのピエタ」~



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キム・ギドク監督の一連の作品は劇場公開時には見逃していたのだけど、数年前に「悪い男」を観て以来、すっかりボクはハマってしまいました。主要な登場人物が少なく、説明的な台詞も殆どなく、淡々と描かれるのは極限状況から仏教的な”悟り”へ導かれるような物語・・・中村うさぎが語る(めのおかし参照)絶望感と幸福感が共存している「地獄」の真ん中にある「天国」を、ボクは思い起こさせるのです。監督自身の山ごもり生活を追ったドキュメンタリー映画「アリラン」では「新作が撮れない!」という”ジレンマ”までをも表現してしまったキム・ギドク監督ですが・・・第69回ヴェネチア映画祭で(北野武監督の「アウトレイジビヨンド」やトーマス・アンドーソン監督の「ザ・マスター」と競って)金獅子賞受賞という韓国映画界初の快挙によって”復活”(?)を遂げたのが、本作「嘆きのピエタ」であります。

”ピエタ”とは、十字架から降ろされたイエス・キリストの遺体を抱く聖母マリアをモチーフとする宗教画/彫刻などのこと・・・本作のポスターは、その中でも最も有名なミケランジェロの”サン・ピエトロのピエタ”を再現しています。ただ・・・このポスターのイメージは、映画の内容を表してはいるのですが・・・ある意味、誤解も生じさせてしているように思えるのです。何故なら、本作の息子と母親の物語は、イエス・キリストと聖母マリアの物語とは結びつきようもない「復讐劇」という韓国映画らしい展開していくのですから・・・。

ガント(イ・ジョンジン)は、親に捨てられ孤独に生きてきた借金の取り立て人・・・「金を借りておいて返さない方が人でなし」と、腕を工業機械に巻き込ませたり、廃墟から突き落とした上に蹴って脚の骨を折ったりして、負債者の身障者保険で取り立てるのです。自殺してしまった負債者の貧しい母親に金目のモノがないと分かると、飼っていたウサギまで奪うような非情な男であります。

ボク個人的には・・・このガント役は「悪い男」に主演していたチョ・ジェヒョンのような”硬派なやくざ”っぽいルックスの役者さんが演じていたら、もっと感情移入したのではないかと思うのですが、本作で起用されたのは、韓流スターっぽい優男系のイ・ジョンジン。逆に、優しそうな男が、実は冷酷という方が”怖い”ところもあるのですが・・・。

そんなガントの目の前に、彼の母親だと名乗る女・ミソン(チョ・ミンス)が唐突に現れます。彼の部屋に入り込んできて台所の洗い物を始めたり、彼の行く場所に現れて跪いて許しを乞うたり、生きているウナギに連絡先を括り付けて置いていったり・・・勿論、孤独なガントが、そう簡単に女の言い分を鵜呑みにするわけありません。

再び部屋を訪ねて来たミソンに、ガントはニワトリの内蔵をナイフの先に刺して「母親と言うなら、これを食え!」と迫ります。怯むこともなくミソンは、血だらけの生の内蔵をむさぼり食うのです。するとガントはミソンの股間に手を入れながら・・・「俺はここから出て来たのか?また戻ってやるよ!」と押し倒し、犯そうとするのです。悲痛に泣き叫ぶミソン・・・近親相姦という上にレイプとは気持ち悪すぎます。結局、レイプは未遂で終わるのですが・・・この時を機に、ガントはミソンを母親として受け入れていくことになります。

ガントの心の変化は、かなり強引です。翌日からは、ミソンが用意した朝食を嬉しそうに食べたり、帰宅前にはブティックでミソンのために服を買ったりするのですから・・・。また、腕を機械に巻き込ませて身障者保険で負債を支払わせるつもりでいたガントは、彼に子供がもうすぐ生まれることを知ると、突然優しさをみせます。腕を失う前にギターを最後に弾きたいという男に、ガントは「子供に聞かせてやれ」と請求書を置いていくのです。ただ、ガントが去るや否や、男は保険金欲しさに自ら腕を機械に巻き込むのですが・・・。

ガントは母親との関係を取り戻すかのように、濃密な関係を築いていきます。ガントの布団に手を入れて夢精を手伝うミンス・・・この親子の関係は、気色悪すぎです。また、ミンスは男物のセーターを編んでいるのですが・・・何故か、ガントのためにしては、サイズが小さいのです。すでに”母親”という存在なしでは生きられなくなってしまってガント・・・今まで非情な取り立てをされた負債者にとって、ミンスという母親の存在は、ガントへの”復讐”のための”弱み”でしかありません。足を折られた負債者は、ミンスを人質にしてガントにガソリンで焼身自殺をさせようとさせようとしたりします。その時はミンスの反撃で、その男を撃退できたものの・・・再び母親を失うことに耐えられないガントは、ミンスに携帯電話は必ず持っているように言いつけるのです。しかし、ある日ミンスは姿を消して、悲痛に助けを求める電話がガントにかかってきます。

ここまでは、金によって振り回される負債者たちの地獄のような”資本主義社会の恥部”や、子供を捨てた母の”贖罪”と子供の”母性を求める強さ”を描いているのでありますが・・・二転三転して真実が見えてくると、韓国映画らしい”復讐”へと物語は方向転換していくことになるのです。

ここから重要なネタバレを含みます。


ガントに助けを求める電話・・・実は、ミンスの一人芝居の狂言だったのです。何故なら、ミンスはガントの母親なんかではなく、ガントの取り立てを苦にして自殺した男の母親だったから。そう言えば・・・本作は、車椅子の男がチェーンに首を吊って自殺するシーンから本作は始まるのですが、その男がミンスの息子だったということだったのです。ガントにはサイズが小さいセーターも、この息子のために編んでいたものでした。”母性”に飢えているガントに近づき、自分を彼の母親と信じ込ませることで、ガントにも愛する家族を失わされることを身をもって知らしめてやろうという、命をかけたミンスの”復讐”だったのです。

ミンスが捕らえられているという廃墟(以前、ガントが男を突き落とした場所)へガントが行ってみると、ミンスは今にも誰かに突き落とされそう・・・地面にひれ伏してミンスだけは助けてくれと懇願するガントを上からみて満足そうなミンス。復讐を果たす時になって何故か、涙してしまうのは、誰の母親としての悲しみなのでしょうか?天国で待っている息子?それとも彼女の命乞いをするガント?

ガントの目の前で、ミンスは投身自殺をして息絶えます。以前から、ミンスが「私が死んだら埋めて欲しい」と言っていた松の木の下を掘り返すと・・・そこには、ミンスが編んでいたセーターを身につけた青年の死体。死体が着ていたセーターを身につけて、青年とミンスの死体と一緒に横たわるガント・・・ミンスが、本当は何者であったのかを、ガント理解したのかはハッキリとは描かれないのですが、この後のガントの行動は、何故か不思議な感動を生むのであります。

身障者保険を受け取らせた負債者のひとりの元をガントは訪ねます。ポン菓子を売ってやりくりしている彼の妻のトラックの下に潜り込み、ガントは自分のカラダと首をチェーンで結びつけます。まだ、夜の明けないうちに仕事にでかけるためにトラックで妻はでかけるのですが・・・薄暗い道路に赤い血のラインを残していくのです。ミンスに騙されていたと知っても、一度、母性を経験してしまったガントは、自分の取り立て人としての罪深さに、死による贖罪を選んだ・・・というのでしょうか?

キム・ギドクの作品は、男にとって都合のいい「女性蔑視」と批判されることもあるようですが、本作を含めて一連の作品に共通しているように感じるのは、女性の”母性”に対する、キム・ギドク監督の絶大な信頼感・・・どれほど過酷で極限の状態であっても、男のすべての”罪”は常に”母性”によって許されるということなのです。


「嘆きのピエタ」
原題/피에타
2012年/韓国
監督/脚本 : キム・ギドク
出演    ; イ・ジョンジン、チョ・ミンス

2013年6月15日より日本劇場公開


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2013/05/16

とことん”ドライ”で、とてつもなく”ブラック”なブリティッシュコメディの新・真骨頂・・・共感にも感動にも意味がないシュールさにハマってしまうの!~「Sightseers/サイトシアーズ〜殺人者のための英国観光ガイド〜」~



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何かを訴えようとする志の高い(?)映画だけでなく・・・スラップスティックコメディであっても、エログロのトラウマ映画でも、何らかの感動、または不快感を生み出して、どこかしら観客の心を動かすところがないと、観るに絶えない”つまらない映画”と評価を下されてしまいがちです。「この映画って何が言いたいの?」というのは、多くの場合、褒め言葉ではありません。

何だかよく分からないのに、何故か、何度でも見たくなってしまう・・・ボクの”お気に入り”の一作となったのが、殆ど予備知識もない状態で観た「Sightseers/サイトシアーズ(原題)=ツーリスト/観光客と同義語」。”あの”エドガー・ライト(「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホットファズ~俺たちスーパーポリスメン」「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」)がプロデューサーに名を連ね、クールなバイオレンス映画の「キル・リスト」を監督したベン・ウィートリーによる最新作のブリティッシュコメディ映画であります。

カップルがイギリスの田舎をキャンピングカーで旅をするというロードムービーなのですが・・・まず、主人公のカップルの二人がイケてなさ過ぎ。ティナ(アリス・ロウ)は、ビターな性格の母親と小さな町で暮らしをしている34歳の女・・・付き合い始めて3ヶ月になる恋人のクリス(スティーブ・オラム)は、ティナに「俺の世界を見せやりたい!」とか、「君はボクのミューズ!」とか、ほざいている”さえない中年男で自称(?)ライター。約1年ほど前に、唯一の友達として可愛がっていた愛犬を失った(ティナがソファに置きっぱなしにしていた編み物棒に誤って突き刺さって死んじゃった!)母親は、いまだに落ち込んでいるのですが・・・ティナは一週間の予定でヨークシャー地方へ、クリスの執筆の取材を兼ねた旅行に出かけようとしています。

奇妙な依存関係にある母と娘でありますから、勿論のこと母親はクリスを”信用出来ない男”だと毛嫌いしていて、旅行にも大反対・・・なんだかんだで、この旅行は二人にとっては”エッチやり放題”目的の旅行であることは、母親にもバレているようです。だからこそ、罵声を浴びせる(!)母親を振り切ってティナはクリスとキャンピングカーで旅立ってしまうわけですが・・・このタイトルシーンで流れるのが「Taited Love」(Marc Almond姐さんの”Soft Cell”バージョン!)というもの、この先の皮肉な展開を予感させているかもしれません。

最初に立ち寄った「トラム(路面電車)博物館」で、アイスクリームの包み紙を捨てる男の客に遭遇したクリスは、すぐさま注意するのですが、その男は注意を無視しただけでなく、中指を立てるサインまでしてきて、その後もゴミを施設内でまき散らします。彼の大好きなトラム博物館を汚すマナーの悪い奴なんて許せない・・・という苛立ちを抱えながら出発しようとしたところ、その男が偶然にもキャンピングカーの背後に。クリスはうっかりを装おって(?)その男をバック運転でひき殺してしまうのです。タイヤで踏みつぶされた男の顔や腕は、見事にグッチャリ・・・スプラッター映画に匹敵するほど悪趣味な描写でありながら、あっさりと見せてしまうセンスは、とことん”ドライ”であります。

パニックになるティナを慰めながらも、ニヤリと微笑むクリス・・・これは、故意だったのです。結局、警察では事故と処理されて、二人はあっさりと解放されるのですが・・・その後、トラックドライバーの休憩所近くに駐車して、覗き見されることも気にせずに激しくエッチに興じます。殺人によって、性的にも興奮しちゃうって・・・ヤバいです。これをきっかけに、ある種の”歯止め”が効かなくなった二人は、イギリスの美しい田舎を旅しながら、彼らたちに関わる人々を次々と殺害していくことになっていくのであります。最初の殺人は(ゴミを捨てたからといって殺していいという正当性はありませんが)非常識な相手ではありました・・・しかし、その後は自分勝手な理由で、次々と普通の人々を殺していくのです。

キャンピングカーで旅している夫婦の旦那を石で殴り殺した上に彼の飼っている犬(偶然にもティナが殺してしまった犬にそっくり!)と一眼レフカメラを奪い・・・遺跡で犬のウンチ処理をしなかったことを注意してきた男を撲殺しサンドイッチを盗み・・・田舎のパブでクリスにちょっかいを出してきた結婚間近の女を崖の上から突き飛ばし・・・車を止める時に路肩を走っていたランナーをひき殺し・・・キャンピング用の自転車を開発した旅行者を崖から突き落とし・・・と、スプラッター映画並みに死体がゴロゴロです。

しかし、ティナとクリスは、シリアルキラーのキチガイとして描かれるわけでもなく、ボニー&クライドのようなアンチヒーロー的な破天荒っぷりさもありません。妙にスピルチュアルになったり、エコ問題には敏感だったり・・・結局、人間は他者に対して、タカが外れてしまうと冷酷になってしまうものなのか・・・と、笑いは凍りつきそうになります。しかし、ロードムービーにありがちな登場人物の人間的な成長や、説教じみた教訓もなく、淡々と人を殺す以外は(!)ちょっとオフビートなセンスを持った変わり者のカップルとして描いているに過ぎないのです。

キャンピング用の自転車を一緒にビジネスにしようとクリスが仲良くなった男性(最後に殺される)にセクハラされたと訴えるティナ・・・それはクリスの気を引くための切ない乙女な嫉妬なのですが、その嘘の内容が”ウンコプレー”という意味のない下品っぷりにドン引きであります。「人の死」と「下品なジョーク」を横並びにしてしまう不謹慎さは、とてつもなく”ブラック”です。

ここからネタバレを含みます。


こんな二人が、呑気にティナの実家に帰宅して終わるわけはないだろう・・・と思っていたら、旅の最終地点となる古い橋まで来たところで、キャンピングカーをガソリンをかけて燃やしてしまいます。そう・・・旅の終わりというのは、二人にとっての死に場所だったのです。ティナとクリスは古い橋の上から飛び降り心中をするために、橋に登ります。結構、唐突な展開なのですが・・・さらに驚きの”どんでん返し”を迎えて、再び「Taited Love」(今度はオリジナルのGloria Jonesバージョン!)が流れて、いきなり映画は終わります。正直いって「この映画って何だったの?」という呆然とさせられてしまうエンディング・・・「これこそ男と女の違い!」という解釈もできるのかもしれませんが、登ってきた脚立がすっと外されたような感じなのです。

とっちらかしの伏線を見事につなげていくハリウッドのコメディ映画や、最後には涙ホロリとさせる邦画のコメディ映画とは違う本作の、共感にも感動にも意味のないシュールさは「ワハハハ」ではなく「ヒーヒーヒー」という”引きつり笑い”しかできないボクの笑いのツボにピッタリとハマったのであります。


「サイトシアーズ〜殺人者のための英国観光ガイド〜」
原題/Sightseers
2012年/イギリス
監督 : ベン・ウィートリー
出演 : アリス・ロウ、スティーブ・オラム、エイリーン・デイヴィス

2013年9月28日日本劇場公開


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